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月曜日の朝とは、どうしてこんなにも憂鬱なのだろう。
重い瞼を擦り、食器を重ね流しに運びながらリナリーは思った。
昨日までの優雅な休日。たとえ出掛ける予定が無くとも、少しだけ遅く起きて、それでもたっぷりある時間を思い胸を躍らせる。
しかし夜を迎え次に目が覚めた時には、退屈な授業に拘束される毎日が戻って来るのだ。
今朝は兄が早くから仕事で外で食事を取る為、後片付けも楽でいい。
だから時間には余裕がある、とリビングの時計に目をやると、予想外に進んでいる長針がまたひとつカチリと動いた。
「や、やだ!もうこんな時間!?」
淡いブルーのYシャツに、深い紅色をしたリボンを付けて、急いでベストを上から着込む。
傍らに置いてあった学生カバンを掴み、慌ただしく部屋を出た。
兄と二人で暮らすマンションの一室から、階段を降りてすぐの自転車置き場へ。
息を切らせて辿り着くと、いつも通り幼なじみが待っていた。
「ねぼすけ」
呆れ顔の後、からかうような薄い笑み。
自分と同じ、いやそれよりも蒼みのかかった長い黒髪は、今日も襟元できちんと束ねられている。
「きょっ、今日はたまたまだもん!
いつもは神田の方が遅いじゃない!」
「遅刻するぞ」
せっかくの反撃は あっさりと流されてしまい、リナリーはしぶしぶ彼の自転車の荷台に腰を下ろす。
一緒に登校するのは何度目になるだろう。
歩いて行けた地元の幼稚園、小学校、中学校‥‥。
そして高校に入ってからは当たり前のように神田はリナリーを後ろに乗せて、毎朝 自慢の持久力で自転車を走らせるのだ。
荷台の上で受ける風は、とても心地がよい。
少し冷たい空気が頬を撫で、天気が良ければ綺麗な空が瞳に映り極上の時間になる。
こんな中をひたすら前だけを見て人ひとり運んでいる神田に申し訳ないなぁと思いつつ目を閉じた。
「‥‥‥‥」
「‥‥」
「‥‥あ‥‥あぁーっ!!!」
キキィッ
「な、なんだよ!」
突然 大声を上げたリナリーに驚き、思わず自転車を止めた神田は顔だけ向けて彼女を睨む。
そんな彼にはお構いなしに、リナリーは全く別の方向を向いていた。
「あっ、あっ!どうしようっ英語の課題忘れて来ちゃった‥‥!」
「どこに」
「机の上!」
はぁ〜と溜め息を付き、自転車の方向を変えようとする神田。
[vol.1(和奈)]の続きを読む
- 2008/01/04(金) 02:26:40|
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やっぱり。
やっぱり月曜日は!
リナリーは自分に腹をたてていた。
特に月曜日は、自分が嫌になりやすい日だということをよく分かっていた。
だから時間に余裕を持って行動しようと朝計画していたというのに何も計画通りに進まない。
本当に、なんで人生の道のりとはこうも土砂道ばかりなんだろう。
元来た道を戻り、早くもマンションに到着し部屋に駆け込んだ。
予想通り 英語の課題は机の上にあった。
急いでそれを掴みとり鞄に押し込み再び家を出る。
皆、経験したことがあるとは思うが忘れ物などでもう一度家をでることほど虚しいこともない。
リナリーは頭の中で他に忘れ物がなかったかを考えながら階段を駆け降りた。
一つ忘れ物をしていると、大体二つ目もある。
それに今日は月曜日。
不幸な月曜日なのだ。
まだ何かあるに決まっている。
そう思っていた時。
リナリーは、ふと右肩に違和感を感じた。
いつももう少し重みがあるはずというか…何かおかしい。走る足は止めずに右肩を見た。
「!?」
衝撃的。
いや、馬鹿な自分のせい。
それとも、月曜日だから?
鞄が開いている。
それも持ち手の部分が片方肩から外れているため中の教科書がずり落ちそうになっている。
いくらパニックだったからといったってこれはあんまりだ。普通だったら気付く。
リナリーは自分の行動を疑った。
何か落としたものはないか流石に足を止めあたふたと鞄を探る。
すると またもや英語の課題がない。
確かに鞄に入れた。
入れたというより突っ込んだというほうが近いが…。でもあれは数枚のプリントをクリップで留めているだけなので落ちやすいのも確かだ。そして散らばりやすいのも確か…。
あれは今日のアンラッキーアイテムなのか。
不運にも程がある。
少し迷ったがリナリーは来た足を引き返そうと振り返った。
すると少し遠いが何枚かのプリントが道に散らばっているのが目に入った。
よかった。
少しの安堵が生まれた。
今日はあの英語の課題に振り回されてばかりだ。
リナリーは駆け出した。
あれが問題なく鞄に入っていれば今頃、いつも通り私は神田と登校していただろう。
荷台に乗って心地よい風をうけて。
そして今も気持ち良い風が吹き抜ける。
リナリーは血の気が引くのを感じた。
まさか…である。
風は容赦なく吹いた。
見事に吹き抜けプリントは中を舞った。
「ああ!あー!!」
リナリーは足を速めたが間に合うかは一か八かだった。プリントは四方に舞ったのだ。
と、ちょうどその時、向かい側から同じ高校の制服を着た男子生徒が歩いてきた。
「すみません!そのプリントとってください!!」
リナリーは、声を張り上げた。これでもかというくらいに。
しかし、その男子生徒は何の反応もなしにすたすたと歩いてくる。
「え…」
無視をしている。わけではないだろう。たぶん。聞こえていないのだ。
しょうがない。
リナリーは諦め半分だったが全てのプリントを奪回しようと試みた。
そうしないと困る。
しかし、それは予想外に困難なことだった。
やはり1枚だけでもいいから的を絞ればよかったと後になって後悔した。
風は無惨にもプリントを遥か遠くに運んでしまったのだ。
リナリーは息を切らして立ちすくんでいた。
その隣を何も知らないだろう男子生徒が通り過ぎる。
あぁ…イヤホン…音楽を聞いて…
リナリーは、彼の一際目立つ赤毛から少し覗く耳元を見てぼんやり思った。
すると、彼は急に立ち止まり、耳からイヤホンを外して呟いた。
「こういうのをさ、二兎を追う者は一兎をも得ずって言うんだな。」
そして眼帯をした顔を向けリナリーを見て微笑んだ。
彼は再びイヤホンを耳にいれ「春だな」と呟き、ネクタイに少し手をかけ緩めると歩き出した。
「…な、何なの…」
リナリーは久々に他人に怒りという感情がこみあげてきた。
赤毛 眼帯 イヤホン 緩いネクタイ
アンラッキーパーソン
不幸な月曜日はやっぱり不幸ばかりだった。
- 2008/01/30(水) 23:08:43|
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「おい、まだむくれてんのかよ」
パタン、と冷蔵庫の閉まる音がした。
冷たいペットボトルのお茶が注がれ、コップの中で波を打つ。
その日の放課後、リナリーは神田の部屋に寄って愚痴を零していた。
彼の両親は田舎暮らしに憧れ、離れて生活している為に今の神田は一人暮らし。
そんな場所に年頃の少女が頻繁に出入りするのは幼なじみである由縁だったが、部屋の主である彼自身は その無防備さを考え直して欲しいと思っている。
「むくれてなんか‥‥」
あの後 念の為吹き飛ばされたプリントを道沿いに探して歩いたが、当然風に運ばれて行ったそれが見つかる筈もない。
遺憾ながら英語の課題は未提出。
再度代わりのものを出すにしても今日の期限までに出すことなど不可能だった。
――そして、浮かんでくるのは赤い髪の少年。
八つ当たりに近い感情が渦巻いて、どうにも頭から離れない。
否、プリントを失くしたのは彼のせいではない。自分の不注意のせいだ。
さもなくば月曜日のせいだ。
「だからって!!」
あの態度はないんじゃない!?
「は?」
あの少年のことは、神田には黙っていた。
言ったところで自業自得だと叱られるのがオチだろう。
敢えて話そうとも思わない。
彼に怒りの矛先を向けるのは筋違いだと、自分でも十二分に解っていたからだ。
「やっぱり俺も付いて行くべきだったな」
「‥‥それ、言って欲しくなかったのに〜」
「お前がそんなんだと調子が狂う」
「‥‥‥‥」
いけないいけない。
しゃきっとしなくちゃ。
神田には心配も迷惑もかけたくはない。
大切な大切な、優しい幼なじみ。
家族同様に育ってきたからこそ、いつか突き放される時が来るのではと不安になるのだ。
それは当然、杞憂に過ぎないのだが。
リナリーは勢いよく身体を起こし、自身の両頬を数回叩いた。
目の前で神田が驚いていたが構わず身を乗り出す。
「それより神田!今週末練習試合なんでしょ?応援に行くねっ」
「‥ああ‥別にいいけどな、マネージャーでもないんだから」
「いいのっ」
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- 2008/02/12(火) 22:50:42|
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「助っ人かぁ…」
部活に対して誰よりも真面目で仲間思いの神田が気に喰わないのも当然のことだ。
彼は自分に厳しい。
だからこそ、妥協なんてしたくなかったのだろう。
信頼した仲間以外の人間など許せなかったのだ。
「だからって喧嘩なんてしちゃダメだよ。」
リナリーが念のため忠告をすると神田はこんな返事をした。
「馬鹿。喧嘩なんてするかよ。」
「あれ。仲良しなの?」
そう聞いた途端、神田の様子が違ったような気がした。そしてリナリーは神田の顔が一瞬戸惑うのを見逃さなかった。
「あいつは喧嘩なんてできるような人間じゃねぇんだ。」
神田が言うには、喧嘩するほど仲がいいと言うように、喧嘩はお互いの感情のぶつけ合いだというのだ。1人が一方的に感情をぶつけるのは喧嘩とは言わないらしい。
「俺は今一度も、あいつの心を読めたことがない。」
神田は、ただ一点を見つめて途端に話すのをやめてしまった。
だから
「それって神田が鈍感なだけじゃないかしら」
という言葉もリナリーは思わず飲み込む他なかった。
時刻は夕食時だった。
今日は買い出しの日であったしリナリーは早めに神田の部屋を後にした。
そして薄暗い道を歩きながらそろそろ本当に幼なじみのことが心配になってきた。
大切な幼なじみが困っているのだから何とか手を貸してあげたい。
でも何をしても足手まといになりそうな気もする。
けれど
あの神田が相談してくるなんて、この先もうないかもしれない。
これを機に神田は自分に頼ってくれるようになるかもしれないとも考えた。
そう思うと
笑みを零さずにはいられなかった。
この時、リナリーはとうに過ぎ去った不幸も忘れて足取り軽く歩いて行った。
暗い住宅街で電灯が細い光を放ち道を照らしていた。
リナリーが通った後、電灯は点滅し始め、しだいに消えてしまった。
そして真っ暗になった。
「最近、学校はどうだい?」
コムイはネクタイを外しながらキッチンにいるリナリーに話しかけた。
「うーん。まあまあ、かな。でも…」
冷蔵庫を開けたままリナリーの動きが止まったのを見てコムイは不思議そうにした。
「でも?」
「でも、嫌なことと嬉しいこと両方あったの。バランスよく。」
「嬉しすぎて、今この時まで嫌なことなんて忘れてたわ。」
兄さんのせいで思い出しちゃったじゃないと不満げかつ嬉しそうにリナリーは笑った。
- 2008/02/27(水) 01:47:34|
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ピ―ッ――
洗濯機が濯ぎを終えたアラームが鳴る。
リナリーは手際よく中の衣類を掻き出すと、それを籠に放り込んでベランダへと向かった。
今日は日曜日だ。
神田の所属する剣道部の試合がある。
彼の出番は午後からなので、午前中に家事を粗方済ませ、それから昼食を差し入れるつもりでいる。
カラカラと横開きの扉を閉めながら、ここ数日の幼なじみを思った。
「絶ッ対に練習には顔出すなよ!」
助っ人の話を彼から聞いた翌日、こんなことを言われた。
公私混同を嫌う神田の邪魔をしたくはないし、平日はあまり時間もないので普段からめったに放課後の剣道部には行かないのだが、彼はわざわざ念を押した。
理由を訊けば、次はどうしても負けられないのだそうだ。
どうにも様子がおかしい。自分を頼ってくれているどころか、一人で抱え込んでしまっている帰来がある。
しかも負けられない、のは、対戦相手ではなく、件の助っ人への対抗心であるような気がしてならない。
リナリーはバスケットに昼食を詰め込むと、それを抱えてマンションを出た。
部員の分も用意している為、随分な大荷物だ。
「あ、」
今日の試合には、その「助っ人」も出場するはずだ。
幼なじみの言う、掴みどころの無いその人物に少々の興味を抱きつつ、リナリーは歩き出した。
吹き荒ぶ風に嫌な記憶と予感が掠めたが、きっと気のせいだ。
「お疲れさまー!わっ」
剣道部の部室を訪ね、ドアを開ける。
何とも言えない熱気が襲ってきて、思わず後退りするリナリー。
試合の度に副主将の幼なじみが差し入れに来るのは恒例のことなので、リナリーが部外者であろうと顧問も部員たちも咎めはしない。
それどころか、その愛らしい姿を認めると 疲れ気味の剣道部員の顔は輝き、嬉しそうに近寄ってくるのだ。
「リーさん!いつもありがとっ」
「神田ー!嫁さんが昼飯持って来たぞー!」
部員の一人がそう呼ぶと、部室の奥にある更衣室からけたたましい足音が響く。
神田が右手に持っていた竹刀がその部員に振り下ろされるが、呆気なく止められてしまった。
どうやらいつものことらしい。
「あほかっそんなんじゃねぇって言ってんだろッ!」
「副主将ー顔真っ赤ですよォ」
騒ぐ神田たちを余所に、リナリーは部屋の中を見回した。助っ人の姿を捜して。
しかし辺りには見知った顔しか見当たらない。
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- 2008/03/14(金) 03:17:54|
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